雑綾です。
ついったとみくしで仲良しのとうふしゃんにプレゼント！

妄想段階では伊作が出張ってたんですが、書いてみたら名前しかでてこなくなりました(笑)
とうふしゃん、文勘絵をありがとー＾＾

落ちてほしいのは保健委員じゃない。
いや、それは少し違う。
保健委員が全員落ちて、用具委員に全員埋められてしまえばいい。
そうすればあの人は、自分だけを見てくれる。
保健委員に会いに来る、という理由ではなくなる。

気づけば中庭には、保健委員が落ちても出られない深さの蛸壺が数えきれぬほどに掘られていた。



始まりはいつだっただろうか。
「あ、きみか。保健委員の子たちが良く落ちる穴を掘っているのは」
「穴ではなく、蛸壺のターコちゃんです」
いつものように蛸壺を掘っていると、地上から包帯だらけの顔をのをかせた曲者。
別に、保健委員が落ちるようにと掘っていたわけではない。
けれどその日から、あの人の目の前に保健委員が現れないように、という目的のために、踏子ちゃんを使うようになったのだった。



悲鳴が聞こえる。これはいつもと変わらぬこと。
狙い通りの人物がかかったらしい。小さく、「だ～いせいこ～う」とつぶやく。
これで今、医務室には誰もいない。

いつだって自分は二の次なのだ。まず入門表にサインをすることから逃れようと、あの手この手をつくして侵入し、医務室へ行く。ひとしきり保健委員をかわいがった後、ギンギン忍者かいけどん暴君に付き合い、事務員に見つかる。入門表と出門表にサインをして一度学園を出て、こっそりと戻ってきてから会いに来るのだ。
「その間、私が何を考えているか、お分かりになりますか？」
穴を掘るだけの人間だと思わないでほしい。
「じれったくなるんだよね、喜八郎くん」
あなたを包帯越しではなく、直接感じたいと思うのは、なぜでしょうか。
「今日は、早いんですね、昆奈門さん」
背後に、彼のぬくもりを感じる。
「なぜだかわかるかい、喜八郎くん」
「…いいえ」
なぜ彼がいつもよりも早く自分に会いに来たのか、なぜ彼は音も気配も一切なく、自分が蛸壺を掘っている中を入って来られたのか。
「きみは、どうして私が医務室に立ち寄ってから会いに来ていると思っている？」
「わかりません」
カラン、と手から踏鋤が離れる音がする。
振り向きたいのに振り向けない、聞きたいけれど聞くのが怖い。うつむいていると、頭をぺちっ、と叩かれる。
「喜八郎くん。また暗い方に考えていたのだろう。だめじゃないか、私はきみに関わる全てのものが好きなのだから」
そっと、喜八郎は振り向いて見上げる。包帯からのぞく１つの瞳が、優しく彼を見つめていた。
「今日は誰がきみの掘ったものに落ちて誰が助けたのか。埋めなきゃいけないからと、また用具委員長の食満くんに怒られたこととか。昨日は昼間、外出していたんだって？女装の時に使う着物を発注しに行っていたんだってね。他にも聞きたいかい？」
「…いいえ」
それは、雑渡にまだ話していない、喜八郎のこと。
保健委員、事務員、用具委員、その他のたくさんの忍たまや忍術学園のものと関わっていないと知り得ない情報。
「わかったろう？最近は本当に伊作くんばかり狙って掘っているみたいだけど、そろそろやめてくれるかい？」
「いいえ！」
それだけははっきりと否定しておかないといけない。このままぬくもりにほだされてしまう気がした。
「だって雑渡さんは、好きなのでしょう？ぜ「ああ、好きだよ」」
喜八郎がなんと続けるのか、雑渡はわかっているようだった。

「きみは、その勘違いだけは早く改めなさい。
　私が好きなのは、」
不意に唇をふさがれ、頭に直接響く声。





「きみだよ」



それは一つの蛸壺の中。月だけが見ていた、二人だけの夜。

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